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第二章 最後の地「高山」part1 

(初めから、私のエッセイ「マイ セカンド ライフ」を読む)

フィオレンツァ記

この世で、この人生の中で高山を知った者は、生涯を通して、どんなに遠くに離れてしまったとしても、例えこの世の果てに行ったとしても、必ず戻りたくなる場所である。
私もその一人だ。
この高山への情熱を見た地元の人たちは、首をかしげて不思議そうに思う。

旦那とすごく笑ったことがあった。
それは、近所の村に住む奥さんが神棚に捧げるための榊(さかき)の枝を高山に取りに来た時に、その時、高山の敷地内での唯一の居住者であった私に榊の枝をとっても良いかどうかを尋ねたのである。
「はい、どうぞ。よろしいですよ。」と答える私に、彼女は驚きの大きなまん丸い目をして、親しそうに「ここ、住んでんの?」と聞き、私は自然に「はい、そうです。」と言った。
すると、彼女は、不思議そうにまた聞いた。「旦那さんは?」
私は「いますよ。多賀城のソニーに勤めてます。」と言ったら、
彼女は、「え~~!奥さ~ん、ソニーさんがこんなとこ 住ませてんの~!」と言いながら目が飛び出しそうになるほど大きな目をして、玄関口から家の中を首を回してジロジロ見始めた。
私は、彼女の視線を追って、私も家の中を見た。
私が東京も含めて、今まで住んだ中で一番素晴らしいと思ったところなのに、日本人にはとんでもない場所に見えたのだろう。
それは、きっと、日本人には高山の魔法が通じないし見えないからだろう。

幸次が会社から戻ると、近所の奥さんに言われたことを伝えたら、給料の高いソニーマンが貧しそうなボロ家に住ませているのを不思議そうに思われたり、ケチでこんな家に住ませていると思われているんだなぁという話になって、二人で大笑いしたのだった。

実は、高山に出会う前、イタリアに帰る決心をしていた私が日本にとどまった理由は高山の存在があったからで、イタリア行きを取りやめてまでも私がこの高山に住むことを強く求めたのだった。
「その代り、ここから出ていかなければならなくなったら、私は日本のどんな場所をも探さないぞ!イタリアに直ぐ帰るからね。」と言って、日本にとどまっただけでなく、高山を通して新たな自分の魂に出会うことができたし、日本を深く愛することができたのである。
結局、高山が私を180度変えたのでした。

高山は、宮城県の七ヶ浜のサーフィンのメッカ「小豆浜」と呼ばれる白い砂浜のそばのフェンスで囲まれた松の木林の森になっている高台の地域。
この七ヶ浜の海岸沿いの一帯は、特別名勝松島と呼ばれる特別保護地区に指定されている。
初めて訪れる人にとっては他の場所とはちょっと違った雰囲気なので、まるで初恋の人との出会いで相手はどんな人だろうと期待するような魅力を感じる所だ。
初めてこの七ヶ浜に来た私は、まさにこのような気持ちだった。

「七ヶ浜に外国人村があるよ」と幸次がつぶやいたことに、驚いたと同時に物凄い興味を持った。
あちこち日本を周った私でも外国人村というものを聞いたのは初めてだ。
私は、直ぐに「行きたい」と言ったら、幸次は「かなり前だけど、地元の人が小豆浜の近くに外国人村があるよって教えてくれたこと覚えてたんだ」と言いながら、七ヶ浜に向かってすぐに出かけた。
初めて見る七ヶ浜の海岸沿いを車で通りながら、松の木林や砂浜を見て、そして岸壁に力強くぶつかる波を見て、まだ見ぬ外国人村に対する思いが次第に募っていくのだった。

5月中旬の今、表浜に車を置いて砂浜を歩いてみると海は穏やかで太陽を浴びてキラキラと光っていた。
砂浜には何人か歩いている人がいた。
私たちは海を正面に見ながら歩き、右手の方にある断崖絶壁の高台の真下まで行くと高台の上の松の木林の間から大きな古い木造の2階建ての家が見えた。
岩壁には外海の荒い波がぶつかり波しぶきとなって消えていく。
ここから先は行き止まりなので、海から離れるようにぐるっと目の前の高台を周るように歩きながら幸次が言った。「もしかしたら、この高台一帯が外国人村かもしれない!」

私たちは更に進んでいくと砂利道が高台に登るように続いている。
そして赤い鉄の門が閉まっているところまで行くと、門には立ち入り禁止と書かれた看板があった。
二人で顔を見合わせながら、幸次が「ここが外国人村だ!」と言うので、立ち入り禁止にもかかわらず、門を乗り越えて中に入ってみた。
無断で入ったことで、誰かが来て怒られるのではないかと思い、胸をドキドキさせながら敷地内の小道を進んだ。
小道を挟むように、あちこちに黒塗りの古い木造の家が建っていたが、全て閉じられており、人がいる気配が無い。敷地内は手つかずの大自然の美しさで溢れていた。
海の方に向かって歩くと高台の一番上にたどり着き、真っ青な太平洋を見下ろすように暫く眺めながら心地よさに浸った。
敷地内を散策しながら4つの家に囲まれた芝生にたどり着いた。
草が高い。
草の中に数羽のキジが隠れていたのだろう。私たちが近づいたことで、それらのキジが甲高い鳴き声をあげながら幾つかは走って遠くに逃げ、幾つかは飛んで逃げて行った。
その迫力に二人とも息をのんだ。

芝生の真ん中に立って強く思った。「(ここにずっと居たい)」と。
一瞬のことであっても強く思えば願いが必ず叶えられるのだ。
高山の神が聞いてくれたかのように、5年後、私たちはここに住むことになった。

(続く


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新天地イタリアへpart3 

幸次記

イタリアに向かう飛行機の中で、スチュワーデスが窓のブラインドを閉じると、機内が暗くなり乗客が休めるようになった。寝ている人もいれば、スポットライトで本を読む人や座席に設置された個別のモニターで映画を楽しむ人もいた。僕は機内で感じる気圧の騒音や揺れに包まれ目を閉じてウトウトしていた。利多は隣にいるフィオレンツァの膝枕で寝ている。利多の足がちょうど僕の膝のところにあった。この2、3か月は、イタリアに向かう準備に追われ、連続的に、いろいろな手続きなどに走り回っていたので、ゆっくり休んで考える時間がなかった。ただ、1回だけ瞬間的に僕の新しい姿を実感した。それは、ある手続きでデータを記入するときに、職業の欄に「無職」と記入した時だった。僕が無職だなんて・・・今まで無職と聞くと他人事のようで、まさか自分が無職になるなんて想像もしていなかった。

僕が就職した1970年代後半は、オイルショックで石油関連製品の買い占めが横行しスーパーからトイレットペーパーが消えた年でもあり、父が経営する米沢織物工場も破たん寸前となっていた。
オイルショックにより各企業も採用人数を減らすなど就職難と言われた時だったが、父は今後成長する企業の「ソニー」に目を付けた。
宮城県多賀城市にあるソニー工場では、オーディオカセットテープやβ方式のビデオテープを世界に先駆けて生産し始めた時期でもあり、「世界のソニー」、「ソニー神話」に向けて動き出そうとしていた時代であった。

すでに、ソニーに就職する門は狭くなっていたが、300人が応募する中、50人の合格者の中に入ることができ、両親や親せきが大喜びした時の画像が、「無職」と書いた瞬間に頭の中で走馬灯のように流れた。

当時は、大手企業に入社できれば、後はレールに乗って終点までたどり着けると言う保証のようなものがまだあっただけに入社試験も難しかったが、内定の通知をもらった時は最高にうれしかったことを覚えている。

自由闊達を思想にしていたソニーに入社できたことは、グローバル的な様々なチャンスや可能性があったし、そういう意味では僕は恵まれていた。
製造を技術支援する部隊に配属され、多能工専門技術者として第一線で活躍するようになり、1980年代には、飛ぶ鳥をも落とすと言われたソニーの邁進力を支えるプロジェクトメンバーに抜擢されると海外工場立ち上げラッシュの波に乗って、フランスやイタリアなどの欧州工場立ち上げに参加することができた。

初めて海外へ行ったのはフランス。フランス出張を通して、憧れのヨーロッパでの仕事や生活には、日本とはちょっと違った自由があった。それは、日本では当たり前なので意識もしていなかったことだが、個人は会社の組織の中に完全に組み込まれていることや、個人が、義理人情、先輩後輩、コミュニティ(例えば町内会)などの関係に支配されている社会の日本に対し、フランスでは、個人が様々な組織の中にあっても、組織に支配されず、個人の意思が尊重されていることは僕にとってとても新鮮なことだったし、義理人情もなければ先輩後輩の関係なども全くないことが、より自由さを感じさせてくれたのであろう。
その時に一瞬思った。このヨーロッパに暮らせればなんて素晴らしいことか・・・
何年か後に、素直に思ったこのことが実現するとは想像もしていなかった。

(続く)


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