サフラン物語(第1話)
Posted on 2012.10.14 Sun 18:05:24 edit
畑に行ってみると、40個から50個くらいのサフランの花がまばらに咲いて、お散歩気分で花を摘みました。
1年ぶりのサフランの花との再会は、本当に嬉しかった。


初め、サフランを知らなかった頃は、それほど感動はしなかったけど、徐々にサフランの良さを知るようになってからは、サフランの開花を待ちきれないと言う感じです。
今日はとてもいい気持ち。
しかし、1週間後はサフランの花が満開に向かい、1輪1輪、ひざを折り、腰を曲げての収穫を考えると、厳しい毎日になるのです。
覚悟はしている。
でも、私たちの球根は、昨年、ネズミやモグラに食べられて、ほぼ全滅してしまい、とても落ち込んでいたのですが、近所でサフラン栽培をしている仲間で、お互いに応援・協力し合っているアラベッラからサフランの球根を譲ってもらい、今年から、また、再スタートすることができたのです。

50個くらいの花を摘み、家に持って来て、めしべを取った。
今日は、サフランのことで頭が一杯。
私はよくわかっている。
私がその日を元気よく頑張れば、その日に何かいいこと、いい知らせがあることを。
今までを振り返ってみるといつもそうであったからだ。
でも、夜のお風呂に入る前までに今日は何も起きなかった。不思議だ。
私の確信も時々間違うこともあるのかぁ。
そして、子供にお風呂に入ってと言った瞬間に電話が鳴った。
夜の10時。こんなに遅くに誰が電話をするのだろうと思い、表示された電話番号を見たら、モンタルチーノ(Montalcino=有名なブルネッロワインの原産地)のエリアコード。
(モンタルチーノに3、4軒の豪邸を持つ知人なら、ミラノのドゥオモの近くの自宅から電話してくるはずなのに・・・なので)不思議そうに電話に出た。
下記は、昨晩の電話のやりとりです。
フィオレンツァ 「Pronto! <もしもし>・・・」
男の声がした。はっきりと、ゆっくりと、喋った。あっ、いつもの声だ。伯爵(Conte)の声だ。
電話の相手 「Pronto! Buonasera. Sono Palazzi. <もしもし、今晩は。パラッツィです。(仮名)>」
フィオレンツァ 「Buonasera! Sig.Palazzi. Come sta? <今晩は、パラッツィさん。お元気ですか?>」
パラッツィ 「Bene grazie! E Lei? <はい、元気です。そちらは?>」
フィオレンツァ 「Tutto bene! Grazie. <元気ですよ。ありがとうございます。>」
パラッツィ 「…今年のサフランはいかがですか?」
フィオレンツァ 「ええ、今日初めて50個くらいの花を摘みましたよ。」
パラッツィ 「そうですか。今年はどのくらい採れそうですか?」
フィオレンツァ 「はい、新しく球根も植えましたし、たぶん500g以上は採れると思いますけど。」
パラッツィ 「ああ、そうですか。あなたのサフランは本当に味が良くて、こんなに美味しいのは食べたことが無いです。」
フィオレンツァ 「美味しい理由は、乾燥の仕方だと思いますが・・・」
パラッツィ 「いつもの注文は後でしますが、今日、電話をした理由は、私の知り合いであるモンタルチーノのレストラン経営者にあなたのサフランのことを話したら、とても興味を持たれたのです。それで、あなたの電話番号を教えていいかどうかを聞きたかったのです。」
フィオレンツァ 「はい。もちろんです。ありがとうございます。」
パラッツィ 「それでは、いつもの注文の時に、又、電話しますが、取り敢えず、これだけを伝えたかったので。Arrivederci. A Presto.」
フィオレンツァ 「Grazie mille! Arrivederci!」
昨晩のこの電話は本当に嬉しかった。
このような素晴らしい人と出会えたのはサフランのおかげだ。
でも、私はこの伯爵とどこかで会ったような気がしている。
今日、畑でサフランの花を摘んでいる時に、手を動かしながらも、頭の中では真っ白い濃い霧の中をタイムスリップしていく自分を見ていた・・・

今からおよそ700年前、私は、アブルッツォ(Abruzzo)州ナベッリ(Navelli)市にある伯爵の宮殿で床の掃除をしていた。
“Uno, due, tre, quattro, cinque, sei, sette, otto, nove, dieci. Signorino ripeta, contando con le manine!”
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10。 お坊ちゃま、指で数えながら繰り返して言って下さいね!」
“Uno, due, tre, quattro, cinque, sei, sette, otto, nove, dieci..”
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10。」
先生の声に従ってロドルフォは指を折りながら数字を数え始めた。
私は、大広間(grande sala)の床に膝を着けて雑巾で掃除をしながら、暖炉の近くでテーブルに座っているウヴァルド伯爵(Conte Ubaldo)の息子とその先生(Tutore)を遠くから私は気づかれないように見ている。
彼らに背中を向けるようにして、私も指を使って声を出さずに数字を数えてみた。
お坊ちゃまの勉強が始まってからの大広間での掃除は前と違って楽しく感じてきた。
家に帰ったら、上の子に教えるのだ。字を学ぶのは貴族たちだけ。
でも、私の子供は、教えた字をすぐに覚えてくれることにいつも驚かされる。
長男のプリモは今年13歳。最近の若者は図々しくなったのか、プリモも伯爵の奴隷で人生を終えたくない等と言い出した。
私も旦那のアミルカレも、呆れ顔で、どうしたらよいのか困ってしまった。
地位も無く、お金も無く、家や土地も無く、字も書けずに何が出来るのか。
私だって、旦那だって、6才頃からずーっと今まで伯爵の家で働き続けてきたのだ。
私が結婚したのは14歳で旦那は15歳でした。
私は15才でプリモを出産したのです。
ほとんど毎年のように出産を繰り返し、半年前に11人目の女の子が生まれた。
良かったことは、私は丈夫な体であったこと。
出産で命を落とした友達も沢山いたのだ。
また、私たちの伯爵は人が良く、伯爵の為に耕している畑からは、他の人よりも多くの穀物をもらえている。
それに、伯爵はクリスマスと復活祭の年に2回、なんと10デナーリ(Dieci denari)もくれる。
10デナーリがあれば、嫁入り道具一式を揃えられる。
そして、旦那と二人でこの10デナーリをため続ければ、何年後かには、夢の馬一頭を買うことが出来る。
メルカートでは、若くて丈夫な馬は550デナーリで売られているのを見た。
まだまだ先の話で気が遠くなるけど、ひたすら頑張り続けるしかない。
それに、20年働けば、今、借りている家と土地1ヘクタールを自分たちの名義にしてもよいと伯爵は言ってくれた。
忠実に働くことで家と土地が貰えるのだ。
私は、朝から晩まで、広い宮殿(Palazzo)の30室を他の女中たちと一緒に掃除し続けている。
調理人や、女中など、伯爵に仕えているのは16人。
家来の男たちは、穀物を作り、羊やヤギなどの家畜の世話、馬の蹄の修理、タンス作りや家財道具の修理、その他の大工作業から家の建築までもこなしている。
しかし、穀物は、ここナベッリの標高760mでは、寒くなるのが早く、耕す期間も限られている。
隣の県のフロレンティア(今のFirenze=フィレンツェ)、ヴェネティア(今のVenezia=ヴェネツィア)に、伯爵は、大麦、小麦、ファ-ロを納めているが、収穫が少ないので、他の国(この時代、まだイタリアが統一されていなかったので、現在のイタリアの他の州のこと。)よりも繁栄が遅れていた。
村の鐘が鳴り響いた。夕方6時の晩課(Vespri)の時間だ。
(晩課とは、正教会の晩の奉神礼、およびカトリック教会の晩の典礼。)
私も仕事を終え、晩課に行きたいが、家で小さい子供が待っているので家に帰らなければならない。
帰ろうとした時、伯爵夫人(Contessa)から沢山の頂きものをもらえたのでとても嬉しかった。
頂いたのは、山ほどの子供のお下がりの服だ。それを大きな布にくるみ持ち帰った。
家に着き、玄関から土の床に入った。宮殿とは大違いの自分の住まいだが、宮殿で沢山の部屋の床掃除をして家に疲れて帰ってくる私にとっては、掃除しなくていいことが嬉しい。
子供たちは嬉しそうに遊ぶように服を取っては広げて、体に合わせてみながら、大きいとか、これは小さいなどと飛んだり跳ねたりはしゃいでいた。
皆が楽しい雰囲気の中、きつい表情で部屋の隅で腕を組んだまま、長男のプリモが立っていた。今にもケンカを売りそうな不機嫌な表情だ。
(サフラン物語第2話に続く)
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コメント
先生
結局、九月に入るととっても忙しくなり、レッスンが出来ないまま仕事が始まってしまいました。今は仕事→家事、子育て、で自分の時間は全くありません~。しばらくまたレッスンはできそうにありません。すみません。でも、仕事の合間にブログを読ませていただいています。とってもきれいなサフランの花に、つかの間の癒しを頂きました。また時間ができれば先生のサフランでお料理に挑戦してみたいなぁと思っています。また再開の日までよろしくお願いいたします。
AI #- | URL | 2012.10.15 12:22 edit
Ai san
Ai san, buongiorno e grazie!
今は子育てで超忙しい時期と思います。でも、また、いつかご自分の時間が取れるようになるはずですから、今は頑張って下さいね。
ブログを読んでいただいて嬉しいです。
私のブログを皆さんが読んでくれるので、それがエネルギー源となるので張り切って書いています。特に、物語シリーズは書いてる自分自身も楽しいです。(笑)
サフランは、手の込むお料理だけではなく、簡単にできるハーブティーもありますので、近いうちにサフランのホームページにそれを掲載しますので、お時間のある時にでも見て下さいね。
Ciao e un bacio alle bambine!
fiorenza #- | URL | 2012.10.15 16:50 edit
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